モノづくりの国に生を受けて溢れるモノに囲まれるシアワセな半生であったが、それでもなお物欲を刺激するものがある。進展するモノづくりで必ず現れては消えゆくもの、絶版である。市場から消えゆくものに強烈な郷愁を感じ、二度と手に入らぬかもしれぬ強迫観念が収集の執念を滾らせる。その一心で車を走らせ所縁のない街を尋ね歩く日々もあった。
しかし、時代は変わった。ネットと物流が結びつき流通の形が大いに変化して、ウチにいながらにして世のモノの大半は手に入るようになった。そして、もう手にすることはないと思われた絶版も希少価値の対価を纏って再び、モノ好きの前に姿を現したのである。
それにしてもオークションというのは目の毒だ。興味あるものがゾクゾクと出品されてくる。全て手に入れようなんてムリなので、これは、というものだけ指値をしておく。どーしても落とすなんて気張らず、まあこれくらいなら手に入れてもいいや、くらいの気持ちで指値し、上回ればまあ、縁がなかったのねと諦めるのだ。競り勝ってやる、なんてやってたらお小遣いが続かない。このコロナもそうだった。
へえ、ブラボーコロナのセダンとはまた地味だなあ。まあ、この外し具合がオオタキらしい。出来は大したことないが、なかなか無い車種なのが面白いや、指値だけしておこう。ポチ。この価格じゃ落とせないだろうけどね。ふぁー、もう寝よーっと。
翌日、オークションを見ると「おめでとうございます。あなたが落札しました。」との表示。あれ?なんか入札したかなあ?
落札金額を確認すると、えらい高値で落札している‼︎
えー⁉︎そんな高く入札してないよ‼︎
焦って確認してもやっぱり落札している。どうやら、昨晩眠気混じりに指値した時、入札金額のゼロを一桁多く打ってしまったらしい。
嗚呼、しくじった。自分のミスを認め、大枚払って手に入れた。うーん。
やってきたのはやっぱり地味なセダンであった。ゼンマイの小さなプラモデルを大きくしてモーターライズにしたような形とモールド色が玩具然としている。
これを弄ってアップデートなどせず、なんとも懐かしいモールド色のプラを磨いて差し色するだけにしておいた。
稀少な当時の模型の雰囲気を残すのと、間違って散財せぬよう自戒の意味を込めて、コレクションに加えることにしよう。
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